小貫信昭氏によるレビュー&矢野顕子セルフライナーノーツ

小貫信昭氏によるレビュー

今年デビュ−30周年を迎える矢野顕子。さて、ご本人はどんな心境かといえば…。
「最初は“やめてよぉ〜”って感じだったんですけど(笑)。年齢とか年数とか、普段は意識してないし、ヒトのこともそういうところでは見ないし…。 でも、せっかくお祝いしてくださるということなので…、“頂けるものは頂いておこう”、ということで(笑)」

彼女はさらに、「年数をただ積み重ねていけば、その分そこに厚みが出ていくものでもないと思う」、とも語った。この言葉には大いに頷いた。 というのも、矢野顕子という人の目覚ましい音楽人生は、キャリアにふんぞり返ったものでは決してないからだ。 その日、その時、その瞬間を鳴らし続けてきた、才気溢れる音そのものの歴史だからである。

そんな区切りの年にリリ−スされるのが、『はじめてのやのあきこ』。 「レコ−ディングが始まった頃から、タイトルはこれにしようと決めていた」というが、僕はこのタイトルを聞いて、洋書でよくある“マイ・ファ−スト・ブック・オブ・○○○○”みたいな、そんな連想をした。でも実際、これは彼女の入門アルバムとしても最適な作品集でもあるようだ。

では、矢野顕子に入門するというのは、どういうことなのか。でもそれは、彼女ならでは“彼女らしさ”の示し方を知ることでもあるだろう。 世間一般が矢野顕子の代表曲と呼ぶ作品から、何曲かが今回、収録されている。 さらに、他人の曲を才気溢れるアイデアでカバ−し、今や矢野作品としてのイメ−ジが強い楽曲も入っている(ちなみに、“ヒトの曲、矢野が歌えば矢野の曲”という名言もある)。 そしてもちろん、今を鳴らす彼女の、ぴかぴかの新曲もある。 これらが無理にバランス取るわけじゃなく、いい感じで並んでいるのがこのアルバムだ。7曲入りだから、ワインで言えば“デキャンタ”の分量かもしれない。 でも聴き終わった手応えは優に“フル・ボトル”の満足感である。6人ものゲストが登場する。 凄い人達で、集めようと思っても集まらないメンツだ。彼女の人徳の成せる技としか言えない。 次から次へと、個性豊かなボ−カリストが出てくるんだから、絶対飽きない。 そして最後の7曲目には、新進気鋭のピアニスト、上原ひろみとの鍵盤対決も控えている。

「確かにこれだけのボ−カリストの人達とアルバムを作るというのは、私にとっても“はじめての”でしたけどね。でも、誰とでもやれるわけではなくて、やはりはじめに人ありき、でした。 でも、“この曲はこの方と…”って、それでお願いしたら、みなさんOKしてくれたんですけどね。まず最初に誰とやりたかった、とかってことではなく、すべての人達に対して、同じ気持ちでね。 でも今回、色々な方にご協力頂きましたからね。今度何かありましたら、誠心誠意、お返しさせて頂きたいと思ってます」

では珠玉の7曲を、彼女自身にコメントしていただくことにしよう。

矢野顕子ライナーノーツ

「自転車でおいで」
もともと音域が広い曲で、しかも男女で歌うとなると、キ−の設定が大変でね。 以前、この曲を佐野(元春)くんとやった時も、それは同じでしたけど…。 今回、他の方とやった曲も、それはあったんですけどね、これに関しては、形としては槇原くんが私に合わせてくれました。 でも彼は、もう、なんでも歌える人なのでね。“これでお願いね“ “はい、歌います…”ということで、見事に完成しましたけども(笑)。

「中央線」
この「中央線」はね、“私達のレパ−トリ−”という感じでしょうか(笑)。そうそう…。 最初にステ−ジでやった時、小田さんは私のCDをコピ−してきてくださったんですけど、その時私がやってたのはずいぶん形も変わってて、私もどうやってたのか忘れちゃってて、自分のCD聞き直した、なんてこともありました(笑)。 でも、あまり今回のようなレコ−ディングって、小田さんはしたことなかったと思うんですけどね。 最初から相手と組み立てていくみたいなことはね。原点に帰る、みたいに思ってくださったんじゃないですか。 キ−は、私と同じ。声、高いよね−。

「PRESTO」
前のアルバム『ホントのきもち』でも共演した、くるりの岸田くんとの共作です。2月1日リリ−スのシングルはくるりと共演してますが、アルバム・ヴァ−ジョンは私のピアノ弾き語りです。 とてもいい曲です。もう、「目指せ、スマッシュ・ヒット!」、ということで作りましたから(笑)。

「ごはんができたよ」
彼女が“自分の原点のひとつ”と言ってくれた曲なんですよ。 私は、そんなこととはつゆ知らず、だったんですけど、でも一緒に歌ってみて感動しました。 この歌をずっと歌ってくれててありがとう、というか、彼女のこの曲に対する愛情に感動したっていうか…。 よく聞いていただくと、歌詞のなかにも“ゆき”ちゃんが登場してます。

「架空の星座」
候補曲もあったんですけど、何か違うアプロ−チもしたくなって、電話で話してて、“だったら、曲を作っちゃう?”ってことになったんです。 だからこれは新曲ですね。その、電話で話している時に、いろいろ、昔話なんかもしててね。 “じゃ、なにか浮かんだら教えて”って、電話を切って、ものの20分くらいしたら、ファックスで歌詞が送られてきて…。 三番まで、きちんと書かれてて、“うぉ〜、凄い”とかって詞をみてたら、最初のメロディがすぐ浮かんできて…。 でも、これは大人の歌よね、私達、実年齢なりの…。

「ひとつだけ」
気分的に、小学校の同級生みたいな感じの人なんです。 男の子なんてヘとも思ってない私と、先生なんてヘとも思ってないキヨシちゃん、でも、そういうとこが好きで、そのまんま大きくなった、みたいな(笑)。 20数年前、“へんたいよいこ”のコンサ−ト(雑誌『ビックリ・ハウス』主催)で共演したときもやった曲です。 でも今回、私は30周年ということですが、キヨシちゃんは35周年ですからね(笑)。

「そこのアイロンに告ぐ」
上原さんが好きな曲だと言ってくれたのと、うちのスタッフにもこの曲のファンがいて、“それでは”、ということでやり始めたんですけどね。 でもその後、とんでもないことに(笑)。 アレンジは彼女にやってもらったんです。で、譜面が出来てきて、ともかく一杯音譜が書いてあるんです。 「で、私は、どこのパ−ト弾けばいいの?」って訊いたら、「これ、全部矢野さんの分です!」って。 “まずい…”。特訓が始まりまして。練習しましたよぉ、すごぉ−く。 最後は彼女から花マルを頂きまして、私は“ほ−っ”っと…。